2020年6月19日金曜日

映画『死なない子供、荒川修作』

現代美術家であり建築家である荒川修作というバケモノを知ったのはふとしたきっかけからだった。1/fゆらぎ扇風機の開発で有名な理学博士の佐治晴夫氏の文章を読んでいて、いつの間にか辿り着いたのである。そもそも理学博士などに興味を持ちそうな私ではないのだが、佐治氏はパイプオルガンの奏者でもあり、バッハ好きな私がひっかかかったというわけであるから、縁の連鎖とは不思議だ。
それでこの偶然出会った映画、『死なない子供』ってタイトルからして怪しい。不死身の生物「プラナリア」の子どもの話??と混乱しつつ、ちょっとだけ観てみようかな、と再生ボタンを押した。まず、わかったことは、これは人間の話であり、“死なないための住宅”に住んだ人のドキュメンタリー映画であるということだ。ストーリーがあるわけでもない。しかし、そこからの90分はあっという間で、私は動脈の血の流れが激しくなるのを感じていた。
「三鷹天命反転住宅」そこは、荒川修作と、妻で詩人のマドリン・ギンズによる実験的な集合住宅である。荒川はこの住宅を「人間本来の身体の潜在能力が引き出され、死ななくなる家」だと語っているが、この映画はそこに実際に住むことにより変化がもたらされた人々を追っているのだ。ほかならぬ監督本人もその居住者であり、驚くべきことにその子どもは生まれたときからこの家で育っている。そして彼らをはじめとする皆に次々と不思議なことが起こるのだ。
傾斜した床や鮮やかな色を持つ球体の空間には、なぜか懐かしい思いが湧く。派手な筈なのに落ち着いているし、超現代的な筈なのに太古のジャングルのようでもある。あるいは、ゴーギャンの描くタヒチに感じる回帰のイメージかもしれない。心が惹かれた。羨ましいのか、知りたいのか、いや、そんな単純な感じではない「自然回帰への強い渇望」のようなものがせりあがってくる。
 この映画に解説は要らない。なぜならこの映画は答えをくれるからだ。現代人が忘れているものは何なのか、肉体を持つ意味とは何なのか、私たちはどこへゆくのか。そういった問いの答えがおのずとわかってくるのだ。

つかこうへい「熱海殺人事件~売春捜査官」 9PROJECT

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