2020年7月1日水曜日

観劇記録 『ナイゲン』(全国版)アガリスクエンターテイメント


 Twitterでチラッと噂を耳にしていた『ナイゲン』、無料配信ときいて観ないという選択肢はない。コロナのせいで舞台から遠のいて半年、「観劇三昧」のお世話になりながら細々とした演劇ライフを過ごしてきたが、今回は大物の匂いがする。
 作者の出身校である千葉県立国府台高校を舞台と公言し、そこで起こるドタバタ喜劇を描くという前評判なのだから、リアリティ抜群の面白さが期待できるはずだ。確か国府台高校は、(知り合いのお子さんが受験したとかいう)なかなかの進学校で、自主自律を体現する伝統校らしい。私はそもそもリアリティのない演劇は嫌いなので(それはフィクションが嫌いという意味ではない)、実感に基づく叫びがベースになっていそうなこの作品は好みに違いないのだ。果たしてこの期待は裏切られることはなかった。
 二時間の大作だが、シリアス(っぽいところ)とギャグ(になってしまっているところ)と真面目に笑い泣きしてしまうところ(当事者には地獄)が、バランス良くちりばめられているため飽きることはない。舞台はクローズドでありメンバーも固定の会話劇でありながら、それぞれの心理が手に取るようにこまかく書かれていることと、ストーリー自体が時間軸に沿ってうまく展開することで相当のエンターテイメントになっている。さらに細かく言えば、ナイゲンという名の会議の開始時間と観客の集合、下校時間と終演時間が一致したり、会議のレジュメが配布されたりするので、観客は生徒代表の一人にならずにはいられない。もちろん細かいことを言えばまだまだ仕掛けはある。
 物語は、やたら長い文化祭の代表委員会議の数時間を描く。それは誰もが望まない時間でありながら、「自治」の名のもとに厳格に進められてゆく。「どうでもいいんだけど早く終わって。」という全員の思いをブチ破る事件が、終了間際に飛び込んだ「今年は、1クラスだけ、文化祭での発表が出来なくなります」という魔の知らせだった。こういういかにもありそうなのにさりげない事件というモチーフこそが、大いなるドラマ性を生むことを私たちは知っているけれどなかなか書けない。ここから舞台は急激に緊張を増し、会議は性格を変え始める。「ひとクラスだけ犠牲を出す」この問題ほど人の本性をむき出しにするものはない。サバイバル系の物語はみんなその部分で成功しているわけだが、私はこの構造は「トロッコ問題」に似ていると思ったので、マイケルサンデルを思い描いた。「白熱教室」も十分におもしろいというのに、こちらはリアルガチ白熱教室なのだから。そういう意味では私は『12人の優しい日本人』や『十二人の怒れる男』のオマージュだなぁという意識は持たなかった。むしろ学年の微妙な上下関係や男女関係が絡むいかにも青春ど真ん中の高校生らしさが、余すところなく表現されていて、(いい意味で)高校演劇そっくりだなと思ったのだ。(大きな声では言わないが三谷幸喜より好きだ)
 テンポのよい泥仕合的応酬、めまぐるしく入れ変わる立場と状況。ピッタリあつらえたようなキャストのらしさ満点の演技。細かいことはもうここには書かない(誰かに聞かれたらまだまだ語れる)けれど、文句なくおもしろかったことは間違いない。ほかのも観てみたいと思った。


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